九九が身につかないまま、3年生に進んでしまう子がいる。
2024年の春、新聞の記事で、そう読みました。
ひとごとではありませんでした。私の娘も、算数がすごく苦手だったからです。
掛け算が覚えられなくて、苦労していました。小学2年生か、3年生のころです。
割り算も苦手で、算数に、すごく苦手意識を持っていました。
私は、数学が好きです。そろばんをやっていました。そろばんは珠で数を動かすので、数を構造で見て計算します。
少しでも構造として見られれば、分かりやすくなるだろう。そう思いました。
算数を、嫌いになってほしくなかったんです。
九九のつまずきは、「イメージできない」から起きているのではないか。
この問いを持って、私は小さなアプリを作りました。アプリは、いまは試作の段階で止めています。
この記事は、アプリの紹介ではありません。新聞の記事から受け取った問題を、どう考えて、何を作り、何を手放したか。
その経緯を、順に書きます。
九九の話であると同時に、考えを、かたちにする話でもあります。
読んでいただきたいのは、子どもの学びに関わる大人の方です。親御さんや、先生を思い浮かべています。
- 九九でつまずく子がいる、という問題と、私が受け取ったこと
- 九九を「構造」で見る、とはどういうことか
- 掛け算から、割り算の「あまり」までを、一本の道で見る方法
- アナログでもできることだけで、アプリを作った理由
- 九九だけに絞った理由と、途中で手放したもの
- 名前が変わっても、残ったもの
- 明日ひとつだけ、試せること
きっかけは、新聞の記事と、娘のこと
2024年3月23日の北海道新聞の朝刊に、一つの記事が載りました。
道内で38年間、小学校の先生を務めた方が、九九を言えないまま大人になる子どもたちについて、本を出したという記事です。
記事が伝えていたことを、私の言葉で短くまとめます。
- 掛け算は、小学2年生の後半に学ぶ。けれども、九九を覚えられないまま3年生に進んでしまう子が増えている、と問題にしていた。
- 九九が身についていないと、その先の小数や分数の掛け算・割り算、中学の数学が分からなくなる。生活にも支障が出てしまう、という危機感があった。
- 教えるうちに、九九だけでなく、繰り上がりのある足し算や、繰り下がりのある引き算でつまずいている子もいると感じた、とあった。
出典:北海道新聞 2024年3月23日 朝刊。
記事で紹介されていた本は、『「九九」が言えないまま大人になる子どもたち』です。
当時、私はその新聞をとっていました。読んで、「あ、そうなんだ」と思いました。九九で悩んでいる子が、ほかにもいるのだと。
娘のことと、重なりました。娘が苦しんでいたのは、娘だけのことではなかった。
ほかの子たちも、同じように苦しんでいるのかもしれない。
では、どうしたら、それを解決できるだろう。そこから、問題を考えはじめました。
そろばんの珠は、構造で見る
このサイトは、考え方や、判断の話をしています。そこに、なぜ九九の話があるのか。不思議に思われるかもしれません。
理由は、冒頭に書いた、そろばんです。私の問いは、そこから来ています。
記事は、九九を身につけることの大切さを伝えていました。
そのうえで私は、覚える入口のほかに、構造で見る入口もあっていいと考えています。
仲間と始めようとして、うまくいかなかった
最初から、一人で作るつもりだったわけではありません。
何か助けられないかと思って、クリエイターの仲間を探しました。そういうプロジェクトをやりたい。
九九でつまずいている子どもたちを、助けてあげたい。そう思って、仲間と始めようとしました。
けれども、結果的に、それはうまくいきませんでした。
その名残で、この取り組みは、いまも続いています。
いろいろ、うまくいかないこともありました。それで、プロジェクトにする前に、とりあえず、このサイトで企画として出そう。
そう決めて、いまに至ります。
構造で見る、とは。「3 × 4」のかたち
LP には、こんなやりとりを置きました。
子ども:「3 × 4」は12! でも、どうして12なの?
ガイド:じゃあ、3このまとまりを、4つならべてみよう。
子ども:3こずつが4つ! 「12」のかたちが見えた。
「3 × 4 = 12」と書くと、数字と記号が並びます。
でも、その奥には、「3このまとまりが、4つ」というかたちがあります。
かたちが見えると、「どうして12なのか」に、自分の言葉で答えられます。
かたちが見えないままだと、12は「そう覚えたもの」のままかもしれません。
もう一つ、このやりとりで気づくことがあります。ガイドは、答えを言っていません。
「12だよ」とは言わずに、「並べてみよう」と言っています。
教えるのではなく、手を動かす場所を作る。この形は、大人が子どもに関わるときにも、使えるのではないかと思っています。
掛け算のかたちを、言葉にしてみます。
| 言い方 | 意味 | 3 × 4 のとき |
|---|---|---|
| ひとつ分 | 1つのまとまりの数 | 3こ |
| いくつ分 | まとまりがいくつあるか | 4つ |
| ぜんぶ | 全体の数 | 12こ |
「3 × 4」は、3このまとまりが4つ。たてとよこを入れかえて「4 × 3」にすると、4このまとまりが3つになります。
並びは変わります。けれども、ぜんぶの数は、どちらも12です。
何が変わって、何が変わらないのか。それを自分の目で確かめられること。これが、私の出発点です。
「3 × 4」を、○で描いてみます。たてに3こ、よこに4こ。
○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
たてに見ると、3こずつのまとまりが、4つ並んでいます。よこに見ると、4こずつのまとまりが、3つ並んでいます。
ぜんぶで、12こ。

同じ12こを、二通りに読める。「3 × 4」と「4 × 3」が同じ数になる理由は、この絵の中にあります。
もう少し、かたちを増やしてみます。「4のだん」は、4まいずつ配っていく動きです。
| 配った回数 | 4まいずつ | ぜんぶで |
|---|---|---|
| 1回 | 4まい | 4 |
| 2回 | 4まいが2つ | 8 |
| 3回 | 4まいが3つ | 12 |
| 4回 | 4まいが4つ | 16 |
| 5回 | 4まいが5つ | 20 |
4、8、12、16、20。数の並びとして眺めると、ただの音の列です。
でも、4まいずつ増えていく動きとして見ると、「4ずつ増える」という決まりが、目に入ります。
九九の「だん」は、同じ大きさのまとまりを、増やしていく動きでもある。
そう見ると、段ごとの数の並びは、バラバラの音の列ではなくなるかもしれません。
ここで、先に断っておきます。
「九九のつまずきは、イメージできないから起きている」。これは、私が置いた問いです。証明されたことではありません。
つまずく理由は、人によってさまざまです。覚えにくい数の並びがある子もいれば、文章題になると迷う子もいます。
「かたちにして考える」は、その中の、一つの入口にすぎません。
ですから、このアプリに、学習効果や成績の向上を約束する力はありません。学校や塾の代わりになるものでもありません。
「効く」と言わずに、「試している」と言う。その線は、守りたいと思っています。
九九のつまずきについて、公開されている数字
私の問いが、思いつきだけで終わらないように。公開されている調査や研究を、手がかりとして三つ並べます。
① 7の段で、つまずきを経験した子は、56.2%。
約1,240人の子どもを対象にした調査です。7の段で「少しつまずいた」と「つまずいた」を合わせた割合です。
8の段、9の段、6の段が続きます。
ただし、九九の正答率を測った数字ではありません。「つまずいた経験」を聞いたものです。
この数字から、すべての子のつまずき方を決めつけることはできません。
② 大人にも、九九への不安がある。8.5%。
全国の20代から60代の男女1,477人へのインターネット調査で、「九九を全部言える自信がない」と答えた割合です。
測っているのは、「自信」です。実際に言えるかを試した成績ではありません。
それでも、九九の不安が子どもだけのものではないことは、分かります。
③ 間違い方にも、手がかりがある。
九九の誤答を調べた研究には、こんな報告があります。4・7・8のように、音の似た数字を含む九九で、誤答が多い。
2年生の終わりに誤って覚えた九九を、3年生でも誤る場合が多い。
すべての誤りが固定する、という意味ではありません。
数字を読むときに、気をつけていることが三つあります。
- 何を数えた数字なのか。成績か、経験か、自信か。
- 誰に聞いた数字なのか。子どもか、大人か。何人か。
- その数字では、言えないことは何か。
数字は、強い言葉に見えます。だからこそ、何を測った数字かを、先に確かめたいのです。
この三つは、私の問いを証明するものではありません。つまずきは、珍しいことではないらしい。
つまずき方には、偏りがあるらしい。そのことを、手がかりとして置いただけです。
出どころと、数字の読み方は、LP の該当の欄に開いてあります。
もう一つ、書いておきたいことがあります。
大人にも九九の不安があるのなら、お子さんが九九で止まったときに、育て方や教え方を責める必要はないと思うのです。
九九は、もともと、つまずきやすい場所の一つなのだと思います。
覚えることと、かたちを見ること
私は、九九を覚えることを、否定したいわけではありません。
覚えていれば、答えはすぐに出ます。その先の計算も、楽になります。覚えることは、大切です。
ただ、答えを覚えるだけでなく、数の「かたち」からも考えてみたらどうだろう。私の問いは、そこにあります。
覚えることと、かたちを見ること。どちらが正しいか、という話ではありません。
入口が一つしかないと、その入口で止まったときに、先へ進みにくくなります。
入口が二つあれば、進める子が増えるかもしれません。

LP では、かたちを見ることを、三つの順番にしました。
| 順番 | することは | 向かう先 |
|---|---|---|
| 01 かたちを見る | まとまりや動きを、目で追う | — |
| 02 言葉で確かめる | 「なぜ?」を考える | 論理性 |
| 03 別の場面で試す | 同じ構造を見つける | 創造性 |
見るだけで終わらせずに、言葉にする。言葉にしたら、別の場面に移してみる。
この順番は、私が物事を考えるときの順番とも、重なります。
つまずく場所を、三つに分けて考える
つまずきと言っても、場所はいくつかありそうです。私は、仮に三つに分けて考えています。
| 場所 | どんな場面か | 九九ぷろじぇくとでの扱い |
|---|---|---|
| 覚える | 音の似た数字で混ざる。段をまたぐと止まる | 扱わない |
| かたちが見えない | 答えは言えるが、「どうして?」が言えない | 掛け算のかたちを、配る動きで見る |
| 割り算へ進む | 掛け算は分かるのに、あまりで止まる | あまりを、入りきらないカードとして見る |
九九ぷろじぇくとが受け持つのは、二つ目と三つ目だけです。一つ目は、扱いません。
全部を受け持とうとしない。範囲を絞るというのは、受け持たないものを決めることでもあります。
掛け算から、割り算の「あまり」まで
私が橋をかけたかったのは、掛け算でつまずいて、割り算へ進めなくなる子のところです。
掛け算の逆が、割り算です。ここを、一本の道にしたいと考えました。
私は、割り算は、九九の反対だと思っていました。
たとえば、36 ÷ 5。5 × 6 で、30。36まで、まだ6あります。まだ5の枠に入るから、もう1つ行ける。
じゃあ、6じゃなくて7か。5 × 7 で、35。そうしたら、1余る。
36 ÷ 5 = 7 あまり 1
確かめ:5 × 7 + 1 = 36
そう考えていくと、割り算の本質は、割り切れるか、割り切れないか、にあるのではないかと思うのです。
| 掛け算 | 割り算(逆から見る) |
|---|---|
| 4まいずつ、5人に配ると、ぜんぶで20まい | 20まいを、4まいずつ配ると、5人 |
| 4 × 5 = 20 | 20 ÷ 4 = 5 |
では、ぴったり配れないときは、どうなるでしょう。
14まいを、4人に配ります。ぐるっと1まいずつ配ると、3まいずつ配れて、2まいが残ります。
14 ÷ 4 = 3 あまり 2
確かめ:4 × 3 + 2 = 14
この残った2まいが、「あまり」です。割り算のむずかしいところは、あまりが出るところだと思います。
配るかたちで見ると、「なぜあまるのか」を、目で追うことができます。
もう一つ、ふくろで見る方法があります。1つに4まい入るふくろを用意して、カードを入れていきます。たとえば、こう見えます。
| カードの数 | ふくろ(1つに4まい) | 入りきらないカード | 式 |
|---|---|---|---|
| 12まい | 3つ | 0まい | 12 ÷ 4 = 3 |
| 13まい | 3つ | 1まい | 13 ÷ 4 = 3 あまり 1 |
| 14まい | 3つ | 2まい | 14 ÷ 4 = 3 あまり 2 |
| 15まい | 3つ | 3まい | 15 ÷ 4 = 3 あまり 3 |
| 16まい | 4つ | 0まい | 16 ÷ 4 = 4 |
表を縦に見ると、あまりは、0、1、2、3と増えて、4まいになったところで、もう1つふくろができます。
あまりは、ふくろの大きさを超えません。
「あまりは、割る数より小さい」という決まりは、言葉で覚えることもできます。
でも、ふくろに入りきらないカードとして見ると、決まりの理由が、目に入ります。
掛け算を分かるために、まずかたちを見る。かたちが見えたら、その逆として割り算を見る。
割り算を分かるために、掛け算を分かる。そういう道です。
九九の表そのものを、数えてみる
九九の表は、1から9までの数を、たてとよこに並べたものです。マスの数は、9 × 9 = 81。
答えは、81マスぶんあります。
けれども、81を全部、別々のものとして覚える必要はないと思うのです。
「3 × 4」と「4 × 3」は、どちらも12になります。掛ける順番を入れかえても、答えは変わりません。
この性質を使って、数えてみます。
| 数えるもの | 数 | 数え方 |
|---|---|---|
| 表のマスの数 | 81 | 9 × 9 |
| 同じ数どうしの組(1 × 1、2 × 2、…、9 × 9) | 9 | 左上から右下への斜めの線の上 |
| ちがう数どうしの組(3 × 4 と 4 × 3 は、1組と数える) | 36 | (81 − 9) ÷ 2 |
| 覚える組の数 | 45 | 9 + 36 |
覚える組は、81ではなく、45です(1の段もふくめた数です)。
答えの種類を数えると、36通りです。同じ答えが、表の中の何か所かに出てきます。
たとえば12は、2 × 6、6 × 2、3 × 4、4 × 3の4か所です。
表の中には、見つけやすい並びもあります。
| 見る場所 | 見えること |
|---|---|
| 1つの段 | 同じ数ずつ増える(4の段は、4ずつ) |
| 左上から右下への斜めの線 | 1、4、9、16、25、36、49、64、81。同じ数どうしの答え。この線を境に、上と下が鏡に映したように同じ並びになる |
| 9の段 | 十の位は1ずつ増え、一の位は1ずつ減る。十の位と一の位を足すと、いつも9 |
| 5の段 | 一の位が、5と0を交互にくり返す |
表の中に、かたちの入口が、いくつもあるのだと思うのです。
九九の表の中に、あまりを探す
割り算のあまりは、九九の表の中に、はみ出した分として表れます。
「14 ÷ 4」なら、4の段を見ます。4、8、12、16、20。14は、12と16のあいだにあります。
14より小さい答えのうち、いちばん大きいのは、12(4 × 3)。14 − 12 = 2。この2が、「あまり」です。
さきほどのふくろの表と同じ動きを、九九の表の中で見ていることになります。

| 割り算 | 見る段 | 割られる数がおさまる所 | 差 | 答え |
|---|---|---|---|---|
| 14 ÷ 4 | 4の段 | 12(4 × 3)と16(4 × 4)のあいだ | 14 − 12 = 2 | 3 あまり 2 |
| 33 ÷ 7 | 7の段 | 28(7 × 4)と35(7 × 5)のあいだ | 33 − 28 = 5 | 4 あまり 5 |
| 62 ÷ 9 | 9の段 | 54(9 × 6)と63(9 × 7)のあいだ | 62 − 54 = 8 | 6 あまり 8 |
| 28 ÷ 7 | 7の段 | 28(7 × 4)にぴったり | 28 − 28 = 0 | 4(あまりなし) |
あまりが0になるのは、割られる数が、段の中の答えと、ぴったり重なるときです。
あまりが割る数と同じ大きさにならないのは、その前に、段の中の次の答えに着くからです。
62は、63の1つ手前なので、9で割るときのあまりは、いちばん大きい8になります。
九九の表は、掛け算の答えの一覧であると同時に、割り算のあまりを測る目盛りにもなっていると思うのです。
やりたかったのは、九九の「橋渡し」
九九ぷろじぇくとは、私が、もともとやりたかったことです。きっかけは、1節に書いた新聞の記事と、娘のことです。
目的は、小さく、はっきりしています。九九でつまずいている子に、「九九は、こうやったら分かるよ」を伝えること。
それだけです。
もともとの私の計画は、足し算や引き算から、分数や小数まで、広い範囲を扱うものでした。それを、九九だけに絞りました。
足し算と引き算は、捨てました。残したのは、掛け算の構造と、割り算のあまり。この二つです。
絞ったのは、広げすぎて、止まったあとでした。絞ることの意味は、止まって初めて分かったと思っています。
いまは、逆に広げなくてよかったと思っています。
なぜ、この二つなのか。掛け算の構造は、九九の土台です。割り算のあまりは、その土台がないと、見えにくい場所です。
土台と、その上でつまずきやすい場所。この二つなら、一本の道で見せられると考えました。

対象は、小さい子です。大きな仕組みではなく、九九でつまずいている小さな子に、小さく届ける。そう決めました。
重さの付け方も、決めました。九九に八割、割り算に二割。割り算を分かるために、まず掛け算を分かる、という順番です。
そろばんから、考え方へ
1節で、そろばんのことを少しだけ書きました。もう少し、続けます。
そろばんでは、数は紙の上の記号ではありません。珠の位置であり、動きであり、桁の変化です。
答えを出すというより、頭の中で構造を動かす感覚に近いものでした。
その感覚は、そろばんを離れたあとも、考え方として残っています。
九九ぷろじぇくとは、その感覚の入口に、そろばんを知らない人にも触れてもらうために作りました。
そろばんと考え方の話は、別の記事(思考の設計図)で詳しく書いています。
アプリは、カードを配る形にした
アプリの画面は LP にあります。ここでは、考え方だけを書きます。
円に、9つの席が並んでいます。席には、1から9までの番号と色があります。真ん中には、手持ちのカードの山があります。
山から、席へ、カードを1まいずつ配ります。遊び方は三つです。

| 遊び方 | することは |
|---|---|
| れんしゅう | 「4のだん」のように、決まった数ずつ配る。席の横に、4、8、12…と出る |
| かけ算 | 「4 × 5」なら、4まいずつ5つぶん配って、ぜんぶで何まいかを見る |
| わり算 | 「14 ÷ 4」なら、14まいを4人に配る。配りきれなかった分が「あまり」 |
数字だけの表にしなかったのは、答えがどうやってできるか、その途中を見てほしかったからです。
九九の表は、答えの一覧です。一覧は、結果だけを見せます。配る動きは、結果ができるまでを見せます。
掛け算では、いきなり全部は配りません。「4 × 5」なら、こう進みます。
- 1番の席に、4まい配ります。これが「ひとつ分」です。
- ほかの席にも、1まいずつ置きます。1まいが、目印になります。
- どの席も4まいになるまで、配ります。5つ分のできあがり。ぜんぶで20まいです。
最初に「ひとつ分」を作って、目印を置いてから、そろえていく。目印があるので、どの席にも、ちゃんと配ったことが見えます。
画面の右側には、いま何をしているのか、なぜそうするのかが、そのつど出ます。
「なぜ、最初に1まいずつ配るの?」に、アプリ自身が答える形です。
さきほどの三つの順番で言えば、こう受け持たせています。
- かたちを見る:カードが、席の前に積まれていく動き
- 言葉で確かめる:右側に出る、「いま何をしていて、なぜか」の説明
- 別の場面で試す:掛け算のかたちを、割り算でも使う
右側の説明は、横長の画面だけに出ます。縦長のスマホの画面には出ません。
できあがると、「チャレンジ せいこう! おめでとう!」と出て、星が1つ増えます。
配ったカードには、その席の「何まい目か」を示す数字(1、2、3…)が出ます。数字や案内は、段階的に外していけます。
分かる手前の補助輪のようなものです。
作るときに、いちばん大事にした決まりがあります。アナログでも、実際にできることだけで作る、ということです。
アプリだけでなく、手元のカードでも、同じように理解できる仕組みにしました。
逆に言えば、リアルでできないことは、絶対にやっていません。
アナログに原点回帰できるためのアプリ。私は、そう考えて作りました。
もともとは、クリエイターの方たちと、アナログでいろいろ展開できたらいいと思っていました。
その考えが、アプリの作り方に残っています。
だから、数字や案内の補助輪も、画面でしかできないことにはしていません。外したら、本当に外れている。
紙のカードでも、同じところまで来られるようにしています。
ほかにも、作るときの決まりを、いくつか置きました。
- 紙のカードと、色のまるシールで、同じことができること
- 人の絵・顔・キャラクターは描かない(席は番号と色だけ)
- 音に頼らない
- 無料で、登録は要らない。外へ送らず、保存もしない
企画・構成・制作は、私が一人で行っています。制作の補助には、AI を使っています。
作る途中の経緯と、手放したもの
最初から、いまの形だったわけではありません。ここまでの経緯を、時間の順に並べてみます。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2024年3月 | 新聞の記事で、九九が身につかないまま3年生に進む子がいると知る |
| そのあと | クリエイターの仲間を探し、一緒に始めようとする。うまくいかない |
| 2026年9月の下旬 | 足し算・引き算から、分数や小数まで扱う、広い試作(前身)を作りはじめる |
| 10月のはじめ | 足し算と引き算を捨てて、九九に絞る方針を決める。掛け算を中心に、割り算へ橋をかける |
| 10月7日 | 九九の81マスの表を土台にした版を、一度公開する。3時間足らずで取り下げる。同じ日に、名前を変えると決める |
| 10月8日 | 表をやめて「円と席」の形に作り直し、無料で公開する。名前を「九九ぷろじぇくと」にする。夕方、開発をいったん止める |
| 10月9日 | 紹介ページ(LP)を作る |

新聞の記事から、2年あまり。アプリの形になってからは、2週間あまりです。
その短い間に、範囲を絞り、形を変え、名前も変えました。
表を土台にした版は、公開から3時間足らずで取り下げました。
その日の夜に、方針を変えました。表をなくして、席とカードの山だけにする。
答えの一覧より、答えができるまでの動きを見せたい。いまは、そう思っています。
人の絵も、やめました。席は番号と色だけです。何を描かないかを決めると、何を見せたいかが、はっきりします。
手放すのは、さびしいことです。けれども、手放したあとの方が、残ったものが、よく見えました。
企画として見ると、決めたことと、捨てたこと
ここまでを、企画の目で並べ直してみます。
企画とは、何をやるかを決めることだけではなく、何をやらないかを決めることでもあると思います。
| 企画の問い | 決めたこと | 捨てたこと |
|---|---|---|
| 目的 | 九九でつまずいている子に、「こうやったら分かる」を伝える | 計算の全部を、分かりやすくすること |
| 対象 | 小さい子と、そのそばにいる大人 | 学校や塾の代わりになること |
| 範囲 | 掛け算の構造と、割り算のあまり | 足し算・引き算、分数・小数 |
| 形 | カードを配る動き。円に並んだ9つの席 | 81マスの表、人の絵、キャラクター |
| 出し方 | 小さく「作りました」。無料・登録なし・試作と明記 | 大きな「プロジェクト」の名乗り |
| 名前 | 「九九ぷろじぇくと」(仮) | 最初の名前 |
右の列は、さびしい列です。でも、この列があるから、左の列が、はっきりします。
思想から、かたちへ
もう一つ、並べてみたいものがあります。頭の中の考え(思想)と、手でさわれるかたち(創造)の対応です。
| 考え | かたち |
|---|---|
| 答えより、構造が見えることが大事 | 答えの表をなくして、配る動きにした |
| 分かる手前に、補助輪があっていい | 数字と案内を、段階的に外せるようにした |
| 嘘のつけないことを、やる | そろばんの感覚を、入口にした |
| 出さなければ、始まらない。でも、小さく | 無料・登録なし。試作と、はっきり書いた |
| 何が変わり、何が変わらないかを、見る | たてとよこを入れかえても、12は12 |
考えは、頭の中にあるうちは、誰にも見えません。見えないものは、確かめることも、直すこともできません。
かたちにすると、見えるようになります。見えると、「ここが違う」と言えます。直せます。
私が「創る」と呼んでいるのは、考えを、直せるところまで連れてくることです。
九九ぷろじぇくとは、九九の話であると同時に、考えをかたちにする話でもあります。
名前は取られても、一次情報は取られない
途中で、名前も変えました。そのとき、私が失ったものを、数えてみました。
| 層 | 他の人に取られるか | 私の考え |
|---|---|---|
| 名前 | 変わることがある | — |
| アイデア | 守られない | 抽象が分かっていれば、形はいくらでも変えられる |
| 一次情報 | 誰にも取れない・変えられない | 圧倒的に出して、抽象化する |
名前は、変えられます。アイデアも、抽象が分かっていれば、形はいくらでも変えられます。
でも、私の一次情報は、この先の時代になっても、変えられません。

私にとっての一次情報の一つが、そろばんをやっていたという事実です。これは、偽れません。
世界観は、大事にしたいと思っています。だからこそ、嘘のつけないことを、やる必要があると思うのです。
九九でつまずいている子に、「こうやったら分かるよ」を伝える。その根っこに、そろばんをやっていた事実があります。
失ったのは、名前だけでした。考え方の軸も、一次情報も、失っていません。
だから、名前は取られても、一次情報は取られない。そう思うようになりました。
そう思うと、やることは決まります。一次情報を、なるべく出していく。出して、抽象化していく。この記事も、その一つです。
もう一つ、数えたものがあります。足りないものです。資本も、仲間も、足りません。広く勝負することは、できません。
一点に絞るしかない、と思っています。
出したらパクられる。でも、出さないと始まらない
私は、昔から、同じ怖さを持っていました。公表すると、アイデアがパクられるのではないか、という怖さです。
けれども、出さなかったら、ずっと何も起きません。この二つの間で、動けなくなる。そのジレンマが、昔からありました。
答えは、「やりながら直していくしかない」でした。
そのために、出し方を小さくすることにしました。

大きく「プロジェクトです」と名乗ると、取り下げるときの傷が深くなります。
「こういう考え方で、こういうものを作りました」と小さく出せば、もしぶつかっても、「では取り下げます」で済みます。
プロジェクトにした分だけ、失うものが増えるなら、小さく出した方がいい。そう比べて、決めました。
私が得たいのは、信用だと思っています。自分をどう売るか、と言い換えてもいいかもしれません。作ったものは、その証拠です。
だから、名乗りは小さくていいのです。
もう一つ、決めていることがあります。
すでに分かっていることを、わざわざ向かった先にやること自体が、ナンセンスだ、ということです。
だから、まず「問題提起」として、考えていることを出します。そのうえで、「こういうアプリを作りました」と見せる。
小さければ小さいほど、対処のしようがあります。
これが、この記事を問題提起の記事にして、アプリを後ろに置いた理由です。
いまの状態と、書かないこと
アプリは、試作の段階で、止めています。
止めている理由の一つは、一点に絞るためです。
私が一点で突き抜けたいのは、いまは、このサイトの柱である「構造的フロネーシス」です。
九九ぷろじぇくとは、その考え方を、子どもの九九という小さな場面で試したものだと思っています。
実際に子どもに使ってもらっての確認は、まだしていません。ですから、子どもの反応は、この記事には書けません。
アプリが決めたとおりに動いているか。計算が合っているか。画面がはみ出していないか。
そこは、検査の道具で、繰り返し確かめました。
けれども、決めたルールそのものが、子どもに分かりやすいかどうかは、検査では確かめられません。最後は、人の目です。
実際に触ってみた人の感想が、要ります。そこが、いまは空いています。

画面の写真は、パソコンのブラウザーで、画面の大きさを変えて撮ったものです。実際のスマホで撮ったものではありません。
利用規約も、仮です。名前も、仮です。内容や動きは、これから変わることがあります。
LP には、アプリへのボタンがあります。無料で、登録は要りません。
試作だと知ったうえで、触っていただけたら、うれしいです。
お子さんが使うときは、使う時間や環境を、保護者の方がご確認ください。学校や塾の代わりになるものではありません。
そのことは、LP の規約にも書いています。
LP では、「れんしゅう」「かけ算」「わり算」の順で紹介しています。
大人の方が先に触って、画面で何が起きているかを、お子さんと話してみるのもよいと思います。
親子で楽しめることを、作るときの決まりの一つにしました。
再開の時期は、いまは決めていません。決まったら、ここに書き足します。
まだ、答えが出ていないこと
この記事は、問いを置いただけです。答えが出ていないことを、四つ書いておきます。
- 九九のつまずきの主な理由は、本当に「イメージできない」ことなのか。
- かたちを見る入口は、どのくらいの子に合うのか。
- 覚えることと、かたちを見ること。どんな順番で組み合わせるとよいのか。
- 割り算のあまりを、ふくろで見ることは、本当に橋になるのか。
どれも、いまの私には、答えられません。答えられないから、問いとして出します。
もし、身近に九九のことで気づいたことがあれば、LP のお問い合わせから教えてください。
「さわって分かる」ということ
この記事のレンズは、「認識」です。得られた情報を、自分の判断軸に変えること。
九九でいえば、答えという情報を、自分のかたちに変えることだと思っています。
本を読んで分かるのと、さわって分かるのは、違います。
そろばんは、さわって分かる道具でした。珠を動かすと、数が動く。九九ぷろじぇくとも、同じです。
カードを配ると、数のかたちが、手の動きといっしょに見えます。
「わかった!」は、さわることから。LP の最初の一行に、そう書きました。
よろしければ、いま、試してみてください。「3 × 4」を頭の中ではなく、指でも、コインでも、手元の物で並べてみる。
数字を見ているときと、少し違う感じがしないでしょうか。

その少しの違いが、私が「かたち」と呼んでいるものです。
明日ひとつだけ
ここまで読んでくださった親御さんや、先生に。明日、ひとつだけ、お願いがあります。
目の前の子に、こう頼んでみてはいかがでしょうか。
「3 × 4 を、おはじきでも、カードでも、手元にあるもので、並べて見せて」
正しいかどうかは、見なくて大丈夫です。見るのは、並べ方です。
3つずつを4列に並べても、4つずつを3列に並べても、ぜんぶの数は12になります。どちらの並べ方でも、かまいません。
そのあとで、「どんなふうに並べたの?」と聞いてみてください。「どうして12になるの?」とは聞かずに。
答えを言わせるのではなく、並べ方を聞く。それだけで、かたちの話が始まります。
先生の場合は、ノートに描いてもらう形もあります。「3 × 4 を、絵で描いてみて」と頼んで、隣の人と見比べます。
同じ12でも、並べ方が違うことが見えます。

