白紙を渡されて「自由に描いてください」と言われると、かえって手が止まることがあります。ところが、「花をテーマに、A4一枚で、今日中に」と条件が付くと、何を描き、何を外すかが見えます。定義は、自由を奪う壁ではありません。
考え始めるための足場です。
結論——定義とは、今回だけ使う境界を仮置きすること
私が考える定義とは、言葉の辞書的な意味を永久に固定することではありません。今回の判断で、その言葉や問題を何として扱い、何を含み、何を含まないかを仮に決めることです。
「仮に」という言葉が大切です。反例や新しい事実が出たら、境界を引き直します。定義は結論ではなく、判断を始めるための仮説です。
構造的フロネーシスの中で、定義を使う位置
「時間がない」「うまくいかない」「AIを活用したい」と言われると、すぐ解決策を出したくなります。構造的フロネーシスでは、解き始める前に立ち止まります。そして「言葉や問題の境界が足りないのではないか」と見ます。
人によって意味が違う、複数の問題が一つの言葉へ混ざっている、対象範囲が広がり続けるなら、必要なのは定義のレンズです。含むもの、含まないもの、固定するもの、変えてよいものを分けることで、「同じ問題と境界を見て判断する」という軸ができます。その判断軸から、「今回はXをYとして扱う」という仮説を置き、反例や実際の使いにくさが出たら定義を引き直します。
私は、増やす前に何を作っているかを決められなかった
私は、考えられることも、作れることも増やしやすい傾向があります。WordPressを使い、複数の独自ドメインを持ち、サイトごとに役割を分け、新しい企画や機能を足してきました。
一つのサイトへまとめると分かりにくい。では、分けよう。分けると新しい名前が必要になる。名前を付けると、別のサイトが必要に見える。そうして、構想は広がりました。
しかし、広がるほど「これは何のための場所か」が分かりにくくなりました。私はXに、「あれもこれもと機能を増やしたが散らばったので、独自ドメイン、サイト、やることを減らし始めた」と書いています。
足りなかったのは、新しい機能ではありませんでした。各サイトで何を扱い、何を扱わないかという定義でした。今回の構造的フロネーシスの記事も、同じ問題を通りました。
以前は、問い、俯瞰、理解、定義、目的、文脈、比較、原則、類推、成熟などを並べ、十二本の構想として扱っていました。
しかし、問いは何を見るべきかを探す入口でした。原則は、レンズを使った結果として残る判断軸でした。成熟は、結果を見て更新する循環でした。そこで、独立したレンズを七つに定義し直しました。旧十二本を間違いとして捨てたのではありません。役割を定義し直し、素材として七本へ戻したのです。定義が変わると、同じ素材の置き場所が変わります。
どの本から、何を持ち帰ったのか
定義のレンズを作るうえで、私が実践した本は『ゼロ秒思考』と『具体と抽象』です。『ゼロ秒思考』からは、頭の中だけで考えず、紙へ書き出す動きを取り入れました。私は実際に、ひたすら紙へ書いて整理する練習をしました。
紙へ出すと、同じ言葉の中へ複数の問題が混ざっていることが見えます。『具体と抽象』からは、一つひとつの具体を上位の概念へまとめ、また別の具体へ降ろす往復を学びました。私はXに、紙へ書く練習、俯瞰する訓練、具体と抽象の概念を組み合わせることで、構造を捉えやすくなったと書いています。
この二冊から、完成した定義を受け取ったわけではありません。曖昧なものを外へ出し、抽象度を上げ下げしながら、今回使える境界を作る方法を借りました。
定義のレンズで見えるもの
定義が必要な場面では、複数の意味や問題が一つの言葉へ詰め込まれています。
たとえば「時間がない」という言葉です。本当に作業時間がないのか。判断者が不在で止まっているのか。優先順位が決まっていないのか。情報が散らばり、探す時間が増えているのか。同じ言葉でも、解く問題は違います。定義では、次の五つを分けます。
- 今回の言葉は、何を意味するか。
- 何を含むか。
- 何を含まないか。
- 何を固定し、何を変えてよいか。
- 何が分かったら定義を変えるか。
読者に残すA4一枚——定義カード
![[ASSETS/IMAGES/structural-phronesis/structural-phronesis_a4_definition.webp]]
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 定義する言葉・問題 | 今回、曖昧なものは何か |
| 一文定義 | 今回は何として扱うか |
| 含む | 対象、期間、関係者、機能 |
| 含まない | 今回は扱わないもの |
| 定数 | 変えない目的、制約、約束 |
| 変数 | 試しながら変えてよい方法 |
| 反例 | この定義で説明できない事例 |
| 再定義条件 | 何が分かれば境界を引き直すか |
構造的フロネーシスを例にすれば、次のようになります。
- 一文定義——説明・修正できる判断へ進む実践的な思考戦略
- 含む——七つのレンズ、問い、行動、検証、更新
- 含まない——人の知能を測る診断、正解を自動生成する手順
- 定数——判断主体を自分へ戻すこと
- 変数——レンズの使い方、記事の順番、事例、図
- 再定義条件——読者が使えない、説明できない、反例が見つかる
定義のレンズが隠すもの
定義は、現実を切り取ります。切り取るから使える一方で、切り落としたものが見えなくなります。きれいな言葉を作るほど、例外や感情を排除しやすくなります。
また、言葉を決めることに時間を使いすぎると、行動しないための作業になります。
名前が決まらなければ始められない。完璧な分類ができるまで公開できない。これは、定義を足場ではなく完成品にしている状態です。定義は、一度使ってみて初めて欠点が見えます。仮置きし、戻せる範囲で試し、必要なら変えます。もう一つ、定義を相手へ押し付けないことも重要です。
議論で言葉が噛み合わないときは、「正しい意味」を争う前に、お互いが今回どの意味で使っているかを確認します。
他のレンズとどうつながるか
定義と目的は似ています。目的は、何を実現したいかを決めます。定義は、その判断で扱う言葉と問題の境界を決めます。同じ定義が別の場所でも通用するかは、文脈で確かめます。複数の定義案があるなら、比較します。定義から落ちた例外を見るには、俯瞰します。自分に都合のよい定義になっていないかは、認識で確かめます。定義した構造を別の具体へ移すときは、類推を使います。
繰り返し使える判断の型
いま迷っている言葉を一つ選びます。「成功」「効率」「自分らしさ」「AI活用」「記事」など、何でも構いません。そして、次の一文を書きます。
今回、私は「___」を、___を含み、___を含まないものとして扱う。
次に、その定義が外れる例を一つ書きます。反例を残せれば、定義を信仰せず、道具として使えます。最終的に目指すのは、正解を一度で当てることではありません。なぜそう判断したかを説明でき、外れたら修正できる状態です。
次は、手段を増やす前に選ぶ基準を置く「目的」を扱います。七つのレンズの全体像は「構造的フロネーシスとは」で確認できます。

